大会長挨拶
第32回一般社団法人日本顎関節学会総会・学術大会の開催にあたり
近藤 壽郎 日本大学 松戸歯学部 顎顔面外科学講座
第32回一般社団法人日本顎関節学会総会・学術大会を2019年(令和元年)7月27日(土曜日)から28日(日曜日)までを会期として、東京都千代田区の学術総合センター・一橋講堂におきまして開催させて頂きます。理事会および社員総会などの附帯会議については、学術大会の前日の26日(金曜日)に同上会場において行います。
第32回一般社団法人日本顎関節学会総会・学術大会は、第6回アジア顎関節学会との併催となりますが、国内学会としては久方ぶりに単独開催のはこびとなります。前回まで行われたいくつかの国内他学会との合同開催は、学会水準の向上、各学会間の学問的ならびに人的交流に共益がありました。ここでまた、「顎関節学会らしさ」とはなにかという自問とともに、顎関節という頭頸部唯一の滑膜関節を軸とした咀嚼機構などの形態学的または機能学的な研究について十分に討論する時間をつくり、「顎関節学」に思いをはせる学会に立ち返ることには意義があるものと思います。
第32回一般社団法人日本顎関節学会総会・学術大会のテーマを「回顧と前進」とさせて頂きました。科学の進歩に欠かせない独創的な発想は、蓄積された既存の厖大な知識や技術の中から、新たな組み合わせを見つけることから生まれると言われており、本学術大会がそのきっかけとなって、顎関節領域の科学的飛躍の一助となることを願い「回顧と前進」と致しました。
メインテーマに繋がるいくつかのプログラムを用意致しました。「顎関節症専門医が目指す未来」というタイトルで各界識者をお招きしたメインシンポジウムを計画しております。将来の疾病構造の変化に対応するプログラムとして、「超高齢化社会における顎関節脱臼を考える」というテーマでシンポジウムを、また「顎関節症保存療法のこれまでとこれから」および「顎関節画像診断のこれまでとこれから」という2つのミニシンポジウムを企画しております。顎関節手術の50年を振り返る特別講演を前フロリダ大学歯学部長の MF Dolwick教授にお願い致しました。加えて、本学会と協力関係にある日本口腔顔面痛学会に、疼痛管理に関するシンポジウムを依頼しております。さらに、一般開業医の先生方のための顎関節症治療に関するプログラムを用意致しました。そのほかにもアジア顎関節学会との共同プログラムをはじめ特別プログラムは多彩です。
話はかわりまして、今回の学会ポスターに配しました絵画についてですが、「12世紀の写字生エアドウィンの肖像」であります。古代ギリシャ文明の精髄は、古代ローマ時代には十分に継承されず、多くの文物はアラブ・イスラム文化の中へと伝承保存されました。欧州における約1000年の忘却を経て、12世紀のレコンキスタの中で、スペインのトレドを中心にアラビア語で書かれた古代ギリシャの文物が写字生(今で言う翻訳者)によって、ラテン語へと再翻訳され、ギリシャ文明はヨーロッパに戻ってきました。この分化運動が後の14世紀(イタリア)ルネッサンスをはじめとする欧州文化興隆の基礎となります。まさに回顧が前進を導いた歴史の一例なのです。
東京の夏は酷暑となり、東京は日本全国屈指の熱帯と化しました。都心では、夜になってもなかなか気温は下がりません。どうかできるだけ学会場の中で快適にお過ごし頂きながら、討論に熱中して頂き、外で熱中症にならぬようおつとめくださいますようお願い申し上げます。 おわりに日本全国津々浦々の本学会会員の諸先生のご参集を賜りますよう、そして多くの御演題の出題をお願い申しあげて第32回一般社団法人日本顎関節学会総会・学術大会大会長の挨拶とさせて頂きます。